胃潰瘍の治療
消化性潰瘍出血
消化性潰瘍出血は命の危険もある急性期疾患である。消化性潰瘍出血の治療には外科的治療と内科的治療がある。1980年以前には潰瘍出血に対する第一の治療は外科的切除であったが、H2ブロッカー(ヒスタミンH2受容体拮抗薬)と呼ばれる胃酸分泌抑制薬が発売され、胃酸のコントロールが可能になると出血が極めて減少したため、それ以降、手術数は激減した。しかし現在でも穿孔や内視鏡的に止血・コントロールできない出血に対しては外科的切除が行われている。
内科的治療には内視鏡治療と薬物治療がある。胃潰瘍より出血している場合はクリッピングあるいはヒートプローブを用いて内視鏡的止血術を行う。薬物治療の主役はH2ブロッカー(ガスターRなど)からプロトンポンプインヒビター(プロトンポンプ阻害薬)(タケプロンR、オメプラールRなど)へと移行し、極めて効果的である。
安定期の消化性潰瘍
内視鏡的治療を必要とするほどでない消化性潰瘍である場合は、出血性消化性潰瘍の発生リスクを減少させるため、プロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカーの使用が必須となる。
ヘリコバクターピロリ関連消化性潰瘍
1990年ころ、消化性潰瘍患者の多くがヘリコバクター・ピロリ(通称:ピロリ菌)を保有している事実がわかった。さらにピロリ菌を除菌すると、1-2年後の潰瘍再発は20%未満に減少することも判明した。ピロリ菌は抗生剤に対する耐性が強く、除菌の失敗が10-20%にみられる。また、除菌に成功した場合でも再感染は、年0.5%程度起こる。ヘリコバクターピロリ関連潰瘍であると疑われた場合、胃潰瘍の状態が落ち着けば、除菌をすることが推奨されている。
日本ではピロリ菌の除菌療法としては、プロトンポンプインヒビターに2種類の抗生剤(アモキシシリンとクラリスロマイシン)を組み合わせる三剤併用療法が2000年から保険適用となっている。治療期間は約1週間で、主な副作用として軟便や、味覚障害がある。
NSAIDS関連消化性潰瘍
NSAIDs(非ステロイド系消炎鎮痛薬 Non steroidal anti-inflammatory drugs)とは日常最も多く使われる鎮痛薬の種類である。シクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素を阻害し、胃粘膜の重要な防御因子であるプロスタグランディンの産生を抑制するため、粘膜障害が生じる。たまに頭痛時などに使う場合にはあまり問題とはならないが、整形外科患者や関節リウマチ患者などにおける長期の連用により消化性潰瘍を発生させる。こういった患者ではNSAIDsを中止することはできないことが多いため、胃潰瘍治療薬を併用し潰瘍の再発を予防する必要がある。ミソプロストール(サイトテックR)及びプロトンポンプ阻害薬はNSAIDs関連消化性潰瘍に有効な薬である(予防に関する保険適用はないが臨床研究によるエビデンスはある。保険診療と根拠に基づく医療が異なってしまう一例である)。高容量H2ブロッカーの投与の有用性は証明されているもののやや劣るし、保険適用となっていない。
胃癌にともなう胃潰瘍
胃潰瘍の一部には胃癌に伴って発生する(胃癌の組織が脆弱で、胃酸により消化されやすいからとされている)ものもある(潰瘍形成型の胃癌)。最初の内視鏡検査では胃癌の存在に気づかれないことが稀にある。従って、胃癌との鑑別が困難な場合には生検を行い、それが胃癌に伴う胃潰瘍ではないことを確認する必要がある。