脳梗塞とは?
脳梗塞(のうこうそく、cerebral infarction、別名:脳軟化症(のうなんかしょう))とは、脳を栄養する動脈の閉塞、または狭窄のため、脳虚血を来たし、脳組織が酸素、または栄養の不足のため壊死、または壊死に近い状態になる事をいう。また、それによる諸症状も脳梗塞と呼ばれる事がある。なかでも、症状が激烈で(片麻痺、意識障害、失語など)突然に発症したものは、他の原因によるものも含め、一般に脳卒中と呼ばれる。それに対して、緩徐に進行して痴呆(脳血管性痴呆)などの形をとるものもある。
日本人の死亡原因の中でも多くを占めている高頻度な疾患である上、後遺症を残して介護が必要となることが多く福祉の面でも大きな課題を伴う疾患である。ちなみに「脳軟化症」の名の由来は、脳細胞は壊死すると溶けてしまうため(「融解壊死」という)こう呼ぶ。
脳梗塞の発症
発症
脳梗塞の症状は徐々に進行して増強してくるものから突然に完成するものまで千差万別である。ただし、塞栓性のものは突然に完成することが多い。
発症時間で最も多いのが夜間から早朝にかけてである。これは、就寝中には水分をとらないために脱水傾向になることと関わっている。年間を通じては夏と冬に多い。夏は脱水、冬は体を動かさなくなることが発症と関わっている。
気付かれる症状として最も多いのが麻痺である。「体が傾いている」「立ち上がれなくなった」などの訴えで病院に搬送されてくることが多い。逆に、失語のみなどの一見奇異な症状では脳梗塞だと気付かれず医療機関への受診が遅れることもある。
急性期
脳梗塞の症状は急性期にもっとも強く、その後徐々に改善していく。これは、壊死に陥った脳組織が腫脹して、周囲の脳組織も圧迫・障害していることによる。腫脹が引いていくとともに、周囲の組織が機能を回復して症状は固定していくのである。ただし、腫脹や、壊死組織から放出されるフリーラジカルは周囲の組織をも壊死させる働きがあるためこれらを抑制することが機能予後の向上につながる。
急性期は血圧が高くなる。場合によっては(収縮期血圧で)200mmHgを超えることもある。これは、虚血部位に対して血流を送り込もうという生理的な反応であり、無理に降圧を図ってはいけない。(降圧しすぎると、梗塞範囲を広めるおそれがある)
降圧薬、不用意な頭位挙上は脳循環血流を悪化させ、再発や症候増悪をおこす。症状が安定するまで少なくとも24時間はベッド上安静とする。
亜急性期
軽症から中等症のものであれば、数日で脳の腫脹や高血圧は落ち着き、場合によってはほとんど症状が消失するまでに回復する。ただし、ある程度大きな後遺症が残った場合にはリハビリテーションを続けても発症前と同レベルまで機能を回復するのは非常に困難である。
慢性期
原因にもよるが、脳梗塞の既往がある人の脳梗塞再発率は非常に高い。そのため再発予防のための投薬を受け続ける必要がある。また、長期の後遺症としててんかんやパーキンソニズムを発症することがある。
脳梗塞の診断
神経内科または脳神経外科が行うが、発症後3時間以内の超急性期では迅速な対応が必要であり、救急科が行うことも多い。
身体所見(神経学的所見)
上記の巣症状のほか、上位中枢の障害を示唆する錐体路徴候(腱反射の亢進、バビンスキー反射の出現)や眼球運動異常などから梗塞部位が推測できる。神経学的所見から脳梗塞(脳卒中)の客観的な重症度を記載する方法として、いくつかのスケールが提唱されている。最も簡便で臨床的に多用されているのはNIHSS(National Institute of Health Stroke Scale)である[1]。これは超急性期の血栓溶解療法を実施する際には必須の項目となっている。
検査所見
一般的な血液検査上は特徴的な所見はないが、血栓性では血小板機能を調べると亢進していることがある。ただし、血液検査から高脂血症・糖尿病などの基礎疾患を評価する意義は大きい。超急性期の血栓溶解療法を実施する際には高血糖や低血糖などの絶対禁忌項目があるため、血液検査は必須となる。
画像所見
X線CTでは、まず何よりも脳出血との鑑別が重要である。脳出血ではよほど小さなものでない限り超急性期から血腫が明確な高吸収域として確認できるからである。さらに脳梗塞では初期(早期)虚血変化(early CT sign)と呼ばれる所見がみられることがある。白質と皮質の境目が不明瞭になる、レンズ核が不明瞭となる、脳溝が狭小化するといった変化である。これらの変化が広範囲に見られる場合は、血栓溶解療法の治療適応外となるため、近年では初期虚血変化有無の判定が重要となっている。やや時間が経過すると、壊死した脳の腫脹がみられることがある。そして、壊死した組織は発症数日すると軟化してCT上暗くなるが、これらの所見はどれも発症急性期にははっきりしないものである。
MRIではより早期から所見を捉えることができる。T2強調画像で病変が高信号になる(細胞の腫脹をみている)のが発症約6時間でみられるほか、拡散強調画像(DWI)では高信号を約3時間後から認めることができるとされる。
血栓性の場合、頚部血管のエコーで、血管内壁の粥腫(プラーク)による狭小化を確認できることがある(高度な場合には外科的切除の対象になる)。エコーでは、頭蓋内血管を微小栓子(HITS)が流れているのを確認できることもある。